それは、いつだっただろう。

 

考える、なんてこともまだ知らなかったころ。
最初に見たときは、特に何とも思わなかった。
黒いつんつんした髪に真っ直ぐな目。
どこにでもいる普通の男の子。
ただ、違うことがあったとすれば。
その子は……普段見かけない、はじめて見る子だった、ということで。

『ねえ、なんてなまえなの?』
聞いたのは、私からだっただろうか。
それとも、男の子からだっただろうか。
どちらかは分からないけれど、そこから何かしらの会話が続いたのは確かなのだ。
だって、それが今に続く全ての始まりだったのだから。

ともあれ。
私とその男の子の出会いは、そんな他愛も無いものだった。

時が経ち、私は大きくなって。
背も伸びたし、髪も伸びた。
けれど。
男の子は、私よりも大きくなっていた。
髪の長さ以外の何もかもが、ずっとずっと。

いつからか。
男の子は、男の人になっていた。
そして、私の中での男の子の在り方も。
幼馴染、というありがちな括りから外れて……

「……か……じ……」
ノイズ交じりの呼び声。
「のど……だい……う……」
あまりに断片的すぎて、意味はよく分からないけれど。
「……、……ょ……ぶか?」
誰の声かは分かるから。
それだけで十分だった。


そして、意識は覚醒へと向かう。

 

 

「のどか、大丈夫か?」
もやの取れた声を聞きながら、ぼんやりと思い出した。
意識が飛んでしまったのだと。
日付が変わったというのに、休む間も無かったのだから……ある意味当然の話ではあるけれど。
「……」
ぎゅ、と傍らの手を握る。
大きくて。
逞しくて。
安心できる、手。

「好きだよ、新」

目を瞑ったまま、呟く。
「……何だよ」
気恥ずかしそうな、新の声。
それでも。
「好きだよ、って」
何度でも。
新が聞き飽きたって言ったとしても。
ずっと言い続けていたい。
ずっとずっと、言い続けられる関係が続いてほしい。

だから。
ぎゅっと、しっかりと、抱きしめる。

「のどか?」
「いいの」
いきなりな私の行動に、新は驚いたようだった。
けれど、そこに拒絶の色は無くて。
感じ取れたのは、ほんの少しの困惑と、それに……これから起こるであろうことに対する大きな期待。
なら、止める理由はどこにも無かった。

「もっともっと、新と一緒にいたいから」

 

 

愛する、ということ。
それが、今の私たちを形作っている、ということ。
だから『これから』は止まらない。
そこに愛が無くならない限り、きっと……繰り返し続けて。

 


 

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