「……はぁ」

窓越しに夜空を見上げても、どんなことを考えていても、目の前の現実は覆らない。
午後九時。
落ち着くには少し早いのだが、今日はそうせざるを得なかった。
……ある意味、どうしようもなく自業自得なことが原因で。

事の起こりは、数時間前にさかのぼる。
何の前触れもなく新が倒れたのだった。
倒れた、といっても深刻な病気の類ではなく……理由は至って単純。

『過労』

それが、医者の診断だった。
とはいえ、新の為すべき仕事は最近になってそれほど多いというわけではない。
故に、原因はそれ以外。
真っ先に原因として思い浮かんだのが、 ……毎晩していること、だった。
そして、他に理由も思い浮かばなくて。
要するに。
毎晩していたことが、一番の原因であることはほぼ間違いないわけで。

……そして今に至る。
くり返すは口癖のような溜め息と罪悪感。
「……本当に」
いいのだろうか、と言いそうになった口を押さえる。
私はいい。
でも、新がどう思っているのか。
……分からないし、聞けなかった。
そもそも、起きていないはずだから答えようにも……

「姉、ちゃん……」

「!」
か細い呟きに、ふと我に返る。
いつの間にか新は起きていたらしく、薄く明いた目がこちらを見ていた。
「……大丈夫か?」
「……うん」
そう言う語調も、どことなく弱々しくて。
本調子、と言うにはかなり遠いようだ。
「ゴメン……今日は無理」
「気にするな。私なら大丈夫だ」
……正直、あまり大丈夫ではないのだが。
それでも、新の方が大事に決まっている。

……けれど。
少しだけ、甘える分にはいいだろう。

なので、より密着してみる。
「姉ちゃん、その……あたってるんだけど」
「何がだ?」
「その、姉ちゃんの……が」
「はっきりと言わないと聞こえない。何が、だ?」
「姉ちゃんの……ムネが」
「ふふ」
だろう、とは思っていた。
こればかりは新の口から言ってほしかったので、ずっと黙っていたのだけれど。
今の私は、新の隣にいて。
もう少し言うなら、全身を密着させるように添い寝している。
だから、色々とあたっているのだ。
胸とかその他諸々が。
「……あ、あの……?」
しどろもどろになっている新の耳元で、囁く。
「気にすることはない。あてたくてあてているのだから」
「っ!」
本来なら、これは御法度だろう。
病人を相手に……などと言われるだろうか。
それでも、
「気にせず、ゆっくり寝るといい」
私は新を求める。
「……」
歯止めが利かない。
利かせる気もない。
堕ちるならどこまででも。
新さえここにいれば。

今日はすることができないのだから。
これくらいは、許されると思いたい。

何故なら。
明日は、二人とも元気でないと困るから。

 


 

inserted by FC2 system