ちーかまの雨を降らせます

 

 十二月二十三日、瀬名優は白の小鹿亭で働いていた。
 はずだった、のだが。

 気付けば、生徒会室の椅子に座らされていて。
 気付けば、先輩方に見下ろされていて。
 気付けば、両手足を椅子に固定されているというのはどういうことなのだろうか。

「……ということで、洗いざらい話してもらいましょうか」
「いや何なんスかこの状況!」
 あまりにも唐突な展開に対し――そしていかにも悪だくみを思いつきました的な顔をした一乃に対して――思わず優は全力で叫び返していた。するとそれを受けて、隣に立っていた夏海が優の顔を覗き込む。
「抵抗しない方がいいよー。抵抗すると大変なことになるってかいちょーが言ってたから」
 夏海の表情はあくまでも笑顔。けれどその笑顔は、どこと無く作り物っぽい感じがした。
「織原先輩まで何やってるんスか!」
「ふっふっふ。今の私は織原先輩ではない! 秘密結社トライオンの幹部が一人・怪人なつーなのだ!」
「いやもう本気で意味が分からないっスよ!」
 身体が動くならうらて全身でもってしてツッコミの一つも入れるところだが、残念ながら両手両足を縛られて椅子に固定されているこの状況では口だけでツッコミ続けるしかない。必然的に、優の声は生徒会室中に大音量で響いていた。
「優ちゃん。分かってほしいの。学園全生徒の楽し……疑問を解決するためには、あなたの協力が必要なのよ」
「今ちょっとだけ本音が出たっスね?」
「ええいごちゃごちゃと余計なことを! こうなったら……出番だ、怪人てまー!」
「分かりました」
「!」
 唐突に背後から聞こえてきた可愛らしい声に、慌てて優は背後を振り返る。するとそこには、

 誰も、いなかった。

「……十倉先輩、っスよね?」
 そこにいるはずの人物がいない。そんな不可思議な状況に、優は嫌な予感を膨らませていた。
「まさか、本当の怪人になったんじゃ……」
「まさか。ちなみに本当に怪人になるのならウサ耳の怪人を所望します」
「てまりん、それはどうして?」
「可愛いからです。あと、今の私は怪人てまーでもなかったりします」
 つまり、と手鞠の声は続く。
「ずっと、目の前にいるのですが」


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