1 ルームメイトの憂鬱 〜AM 7:00〜

朝七時という時間が早いのか遅いのか、それは人それぞれだろう。
学校に行くのであれば、身支度を整えたり朝ご飯を食べたりで慌ただしくなる時間帯。
休みの日であれば、緩々とベッドの中で惰眠をむさぼりたくなるような時間帯。
しかして夏休み、とりわけ学園祭という一大イベントが終わった直後の学園において、そんな時間に起きてあれこれと活動する者はそうは多くなかった。
実際に、獅子ヶ崎ロードを歩く鈴姫と優の周りでは――早朝から開いている数店舗を例外とすれば――人の動きを感じられるような気配は皆無で。
大口を開けてあくびをする優の姿も、しっかりと見ていたのは隣を歩く鈴姫くらいだろう。
「ふわぁ……」
「寝不足?」
隣から聞こえてきた気の抜けたあくびに、鈴姫は思わず悪態をついていた。
「今朝何をするかは昨日の夜に伝えたわよね? 忘れてたの?」
「聞いたっス。そしてちゃんと早く寝たっスよ」
けど、とどこか不機嫌そうに続けて、優はとろんとした眼をこすりながら抗議の声を続けた。
「何もこんな時期にガサ入れをしなくてもいいじゃないっスか。そこまでしなくても大丈夫っスよ」
「だからこそ、よ。こういう時期だからこそ引き締めていかないと、何が起こるか分かったものじゃない」
「……熱血っスね」
「何か言った?」
「いやいや、別に。やる気があるのはいいことっス」
訝しげな表情を見せる鈴姫を尻目に、優は学警部室の鍵を取り出して、どこと無く不愉快気にそれを弄ぶ。
「……それに巻き込まれる人間の苦労は知らない方が幸せっスね、きっと」
「優。言いたいことがあるならハッキリと言ってほしいんだけど」
「別に。なんでもないっスよ。……まあ、強いて言うなら、それは突っ込んでおくっス」
「え?」
きょとんとする鈴姫の胸元を指差しながら、優は呆れたような口調でその先を続けた。
「服装っスよ。何だってまた、その服装なんスか」
現在の鈴姫の服装は、獅子ヶ崎学園指定の制服ではない。随所にフリルのついた、白と黒のご奉仕服。つまりは、メイド服だった。
「こ、これは洗濯が間に合わなくて……っ! 別にこの格好が気に入ったとかそういうわけじゃないんだから!」
「……まあ、いいっスけど。そのツンデレを私に向けられても困るだけっス」
そんな他愛無いやり取りを繰り返しながら歩いていると、程なくして学警部室に辿り着いた。
いつもと同じように鍵を開け、いつもと同じように中に入る。そして、いつもと同じように手探りで明かりをつけようとしたその時、

がたん、と。
物音が響いた。


 

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